映画見てるときの思考たれ流す

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映画『バーバリアン』のストーリー構造(監督:ザック・クレッガー)

  • 『バーバリアン』(原題:Barbarian)のストーリー構造を分析したいと思います。ストーリー全体の分析ではなく、私が気になった部分のみ分析しています。
  • また、読者の皆さんが映画を見ている前提で書いていますので、ネタバレがいやな方はお気をつけください。

タイムジャンプが明けると、主人公は怪しい男と急速に距離を縮め、危険度が跳ね上がっている

  • (プロット)物語序盤、主人公は同居人の男(キース)を怪しんでいる。彼から出された紅茶は飲まないし、置いてあった財布のなかから、こっそり免許証を確認する。 そして主人公がシャワーから出ると、男はまだ開けてないワインを持って主人公のことを待っていた。疑われると思ったから開けずに待っていたと言う。主人公は警戒し、ワインを断る。しかし、男と主人公は仕事の話で盛り上がる。たまたま、その男が主人公の仕事に関連している人物だったのだ。
    • 観客はでき過ぎた偶然なので、おそらく男は主人公がシャワーを浴びている間に彼女のことを調べ上げ、偶然を装っているのではないかと警戒する。
  • (プロット)仕事の話で盛り上がっているところで、カットが入り、わずかにタイムジャンプする。時間にして一時間にも満たないかもしれないが、タイムジャンプが明けると、いつのまにか主人公は怪しい男の隣に座り、元彼の愚痴を話している(話題も仕事からよりプライベートになっている)。 物理的にも精神的にも距離が近づいている。そして、気づいたら主人公はワイングラスを手に持っている。 世間話をして心を許しただけではなく、さらにワインまで口にしてしまっているという危険な状態に。
    • (ポイント)あえて「ワインを飲み始めたシーン」を描かないことで、観客がタイムジャンプ明けに主人公を見ると、彼女は「警戒心を解く」「食べ物を口にする」という2段階上の危険度にステップアップしてしまっている。観客は焦る、カットが入った一瞬で危険度が高まってしまった
    • 普通の映画だったら「怪しいワインを初めて口にしてしまう」と言うシーンを描写するように思うが、あえてこれを省略し、タイムジャンプして「すでにワインを当たり前に飲んでいるところ」を描いている。
  • 同じような作劇については、タイムジャンプした後、キャラクターの「最初の行動」に観客は注目する。ジャンプ前と違う行動をしていれば「変化・忘却・諦め」を強調できる を参照。

同居人の男がモンスターに殺されたところで、初登場の男AJに場面転換するクリフハンガー。観客は「主人公はどうなった?」と不安になる

  • (プロット)同居人の男の「助けて」という声が 聞こえ、主人公は恐る恐る地下室に入っていく。すると男と合流するが後からモンスターが現れ男を殺す。ここで、初登場の男AJに場面転換する。観客は「 この男は誰だ?何の関係がある?主人公はどうなっちゃったの?」と不安になる(クリフハンガー)。
    • (ポイント)しかもここから、AJパートがかなり長く続く。 あんなにホラー的な展開だったのとはうってかわり、彼のパートでは、彼がセクハラの容疑で監督を降ろされ、お金を作るために家を売却しようとするところが長々と描写される。 観客からすると、主人公たちの物語の路線とは全く関係のない彼の話が長時間続くので、一体どうつながってくるんだと全く先の読めない展開に翻弄される。

「何年前」というテロップを使わずに周りの風景やラジオを通してフラッシュバックしたことを観客に示す

  • (ポイント)1:06時点。 急にフラッシュバックするが、 フラッシュバックしたことを示す方法がうまい。周りの風景が荒れ果てておらず平和そうであるという環境の違いと、男が車に乗ったときに流れてくるラジオがレーガン政権のことを述べているので観客がフラッシュバックしたことを認識できる。
  • 物語の舞台であるデトロイトが、回想時点では 平和で素敵な街並みだったが、現在は荒れ果てているという、「環境の変化」があるからこそできた手法

モンスターの誕生の経緯を描くフラッシュバックは誰の記憶でもなく、物語の解説として機能している

  • フラッシュバックとは「🔶 語り手の記憶」もしくは「🔶 語りを聞いたキャラクターの頭の中の想像(具現化)」が映像化されたもの、もしくは物語の中のキャラクターに全く関係なく「🔶 全知全能の語り手による物語の解説」として挿入されたの3通りの解釈が可能である。
  • 本作の「モンスターの誕生の経緯を描くフラッシュバック」は上記の「🔶 全知全能の語り手による物語の解説」に当たる。このフラッシュバックは誰の記憶でもなく、物語の解説としてのフラッシュバック。モンスターたちがどのようにしてあの家に住み着いたか。どういう目的があるのかというのを 誰かの記憶のイメージとして描写するのではなく、観客に対する解説として描写している。